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ニューカレドニア AQUA
投稿旅行記≪かずこ編≫
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めずらしく早起きをした。身支度をして学校に向かう。気持ちの良い日。昨日までの曇り空を忘れてしまうくらいに眩しい空。透き透った空気と濃い色をした花や緑。目に映るもの全てに呼吸を感じる。とても強い力がある。
学校に着くと子供達が校庭の砂場で遊んでいた。私を見るなりみんなで手招きをする。それに気付いた先生も一緒になって大きく手招きをしている。バッグからカメラを出すと一斉に子供達が騒ぎ出した。
一番騒いでいた男の子にカメラを向けると一瞬ですました顔にかわってボクシングのファイティングポーズ。おとなしく隅で見ていたひとりの女の子にカメラを移すと、そばにいた女の子達がその子の髪やスカートの裾を整える。
子供の頃からこんなふうに優しさに溢れているこの島の人達。大きな瞳で私を見ている。その視線はとても温かでそしてなぜだか懐かしい気持ちになる。子供達と一緒にいた時間。不思議だけれど自分が浄化されていた気がする。それは今も続いている。あの日のあの時間が心に蘇るたびに気持ちがおだやかになっていく。あの日の子供達の声をすぐそばに感じる。
お礼を言い、カメラをしまっていると子供達がトイレを指差して何かしきりに伝えてくる。トイレから恥ずかしそうな顔をした女の子が歩いてきた。お腹が痛くてトイレにずっと入っていたらしい。子供達がジェスチャーで「この子の写真も撮って!」と言う。褐色の肌とふわふわした金髪がチャーミングなその子は「ボンジュール。」と言ってカメラの前に立った。
私は日本から持ってきたお手玉を出してみんなにプレゼントした。
「中に入ってるのは何?」
「足で蹴ってもいい?」
先生も一緒になって遊びはじめる。手許に残った最後のひとつを受け取ったのは一番最後に現れた金髪の女の子だった。「メルシィ。」と言って私を見上げたその子の笑顔の中に、この旅で出会ったたくさんの人の顔が浮かんだ。
その日の午後、私はホテルのドライバー、クロードの運転でロンガニ ビーチに向かった。クロードは口笛を吹きながら時速120キロで車を走らせた。もの凄いスピードで横に流れていく景色と、アクセルを踏み続けるクロードを交互に見ているとあっという間にロンガニ ビーチに到着。
私は車から降りるとビーチに向かって走り出した。それをすぐにクロードが呼び戻す。クロードは戻ってきた私をまた車に乗せた。
「どこ行くの?」と聞くと彼は「ロンガニは安全だよ。でもあそこに若い男達がたくさんいた。お前はひとりだから、、、。」
少し車を走らせてやっとクロードが納得できるビーチが見つかる。先に車を降りたクロードは、辺りをぐるりと見渡してから助手席のドアを開けてくれた。「ナイス ビーチ!エンジョイ ロンガニ!!」親指を立てたクロードの太い腕には入れ墨で彼の名前が刻まれていた。
ビーチは眩しかった。足跡も無い真っ白な砂浜。熱帯魚とブルーの海。地元の子供達がやってきて一緒に泳いだりサッカーをした。その中の一番小さな女の子が自分の持っていた果物を分けてくれた。「メルシィ!」と言って私が笑うと嬉しそうに持っていたフルーツ全部を私のバッグに入れた。
私が驚いて「全部くれるの?一緒に食べよう。」とバッグからフルーツを出すと頷いてひとくち食べた。私も並んで座ってひとくち食べる。それはちいさな蜜柑みたいだった。実が固くて種が大きいけれど、とてもおいしい。私が「セボン!」と言うとまた全部のフルーツを私のバッグに戻して「おいしいなら全部あげる!」屈託なく笑う彼女の気持ちを私は丁寧にお礼を言って受け取った。
島の人達は「安全だよ。心配しないで。」と言う。安心させているのではなくて安心できるように見守ってくれている。クロードが連れてきてくれたビーチを私は心からリラックスして楽しんだ。
2時間後に迎えにきてくれたクロード、途中で合流したキアムのレストラン シェフ、フェビアンと3人でドライブ。ウエ村まで車を飛ばす。時速80キロ。すれ違う車、すれ違う人、すれ違う子供達、みんなが手を振り、クロード、フェビアンもみんなに手を振る。
ウエ村に着くとフェビアンは郵便局に入っていった。彼はフランス人。2年前にリフーに来て居着いてしまった。そして今はキアムのシェフをしている。「フェビアンはフランスの家族に手紙を送ってるんだよ。」とクロードが教えてくれた。
そのあと、フェビアンはスーパーに寄ってビスケットひと箱、ナンバーワンビールを6本、そしてカネカのCDを買って車に戻ってきた。車を走らせ、フェビアンの奢りでみんなでビールを飲んだ。
それまで運転していたクロードは2本目のビールを飲み終えた頃、フェビアンと運転を交代した。フェビアンはカーステレオのボリュームを上げて気分良くアクセルを踏む。フェビアンは24歳。たぶんその倍くらいの年齢のクロードは父親みたいな目でフェビアンを見ていた。
小さな家の前で車を降りた。そこはフェビアンの家。中から赤ちゃんを抱いた若い女の子が出てくる。フェビアンは彼女から赤ちゃんを受け取り愛おしそうに抱きしめた。
「僕の赤ちゃん!」そう言って何度も赤ちゃんにキスをする。メラネシアの若い彼女とフランス人のフェビアン。赤ちゃんはママ譲りの大きな瞳で不思議そうに私を見ていた。クロードがまるで自分の孫のように赤ちゃんをあやす。
「フェビアンの奥さんも赤ちゃんもすごく可愛い!」私がそう言うと彼は顔をしかめた。
「ノー!ノット ワイフ。マイ ガールフレンド!」
クロードが「ノー マリード。」と付け足した。
ホテルに戻り、フロントからアンヌマリーに電話をした。「アンヌマリー、昨日はありがとう。今日はロンガニ ビーチに行きました。とってもリフーを楽しんでいます。」
アンヌマリーは「なにか欲しいものは?水やパンはまだあるの?明日はファラの家に来ますか?私はもう一度あなたに会える?」
彼女の声から親切で優しい気持ちが伝わってくる。
「明日、ファラに会いに行きます。あなたの家にも行きます。」
アンヌマリーは私に伝えたいことがあるけれど英語でなんと言えばよいのか解らない、と何度も言った。けれど私もどうすれば彼女にどれだけ感謝しているかなんて言葉にできない。それでも私達は言葉を探した。
結局、二人とも言葉を見つけられずに笑って謝り合い電話を切ることになるのだけれど。